モウリーニョVSレアル・マドリー『三年戦争』

三年戦争

-明かされなかったロッカールームの証言-

ヨーロッパ・フットボール界に突然変異のように現れた男、ジョゼ・モウリーニョ。この希代のアクターでナルシストで自己憐憫過ぎるエゴイストの無惨な失敗に終わった“エル・ブランコ”3年間(2010-2013)を、プレイヤー等の証言を元に(誰のコメントかは分からない)詳細に記すことに腐心した本書を読んでみた。

僕はモウリーニョのシンパでもアンチでもないけれど、『クラシコ』でビラノバの目に指を突っ込んだ現場を現地で目撃した者として、モウリーニョは何故、何処で、どのように失敗したのか。“スペシャル・ワン”から“オンリー・ワン”と称し、意気揚々とドーバー海峡を渡ったにも係わらず、世界一のクラブで唯一の者に成り損ねた蹉跌を、当時漏れ聞こえてきた有象無象の情報の真偽なり核心なりを知る事が出来ればと思い、手に取ってみた。

始めに言っておく方がフェアだったかも知れない。

モウリーニョ・ラブな方は本書を読まないことをオススメしたくなるくらい、全く良く書かれていない。仕立ての良いスーツを身に纏うダンディでグッドルッキングなロマンスグレーは、哀れな虚像として記されている。マネージャーとしての、モウリーニョという役柄、着ぐるみを剥ぎ取ったナマの男は、卑小な器の、何かに怯えるコンプレックスの塊のようだ。ロッカールームでの出来事を漏らした裏切り者を『3匹の黒い羊』と蔑んだが、自身は哀れな『羊飼い』だった。

ロッカールームでのエゴとエゴのぶつかり合いは戦争だ。勝つ以外ないレーゾンデートル。モウリーニョの狡猾でエゲツナイやり口には眉を顰めざるを得なかった。

言われない“通訳あがり”と罵倒された痛烈なトラウマが、強迫観念となっているのかもしれない。“オンリー・ワン”の源泉となる権力に取り憑かれた裸の王は、哀しいほど醜悪だ。

『権力は腐敗する。徹底的に腐敗するのだ』

ジョン・アクトン卿の言葉を借りると、手にした権力で躓くこととなったモウリーニョ。代理人であるホルヘ・メンデスが、自身のクライアントであるプレイヤー(ディ・マリアやコエントラン等)をマドリーへ送り込んだり優遇したりする。コレは駄目だ。

リアリストで結果を出し続けたプロフェッショナルではあるのだろうけど、美しく煌びやかに勝つことが宿命の“エル・ブランコ”を率いるには、あまりにも出自が分不相応だった。

瓦解していく“エル・ブランコ”。ニュートラルなフットボールラバーは、どのようにして勝てなくなるかを知るケーススタディとして読むととても面白い。

プロローグ

第1章 号泣 潰えたファーガソンの後継者という夢

第2章 噴火 モウリーニョが会長に愛された理由

第3章 市場 影のボス、代理人メンデスとの二人三脚

第4章 喧嘩 やられたらやり返せ! 場外乱闘の日常

第5章 屈辱 5-0で迷走した戦術、歪んだ人間関係

第6章 恐怖 広がる不信、分裂する選手。最初の反乱

第7章 “負ける準備をしておけ” 対バルセロナ。信じがたい命令の真意

第8章 反逆 目潰し事件と審判批判。カシージャス決起

第9章 勝利 リーガ優勝。罵倒で力を引き出す人心掌握術

第10章 悲嘆 Rマドリー脱出計画開始。ロナウドとの決別

第11章 非現実 「友好的な別れ」の嘘。会長の密約と裏切り

第12章 ブルー 13-14シーズンにくすぶる戦後処理

実力が全てだが、組織でどのように振る舞うか、自身の立ち位置を顧みる参考にもなる。操り人形の助監督、アイトール・カランカの無能過ぎる悲哀と“ラス”ことラサナ・ディアラの渋いコメントやグラネロのアホさ加減も印象的だった本書。

フットボールラバーは是非手に取ってもらいたい一冊。とても興味深い一冊だった。