年に何回かだけ、そういうゲームを観ることができる。
凄いゲームだった。
2015-2016・ヨーロッパリーグ・クォーターファイナル・セカンドレグ、リヴァプールVSドルトムント@アンフィールド。
開始10分も経たずに、ドルトムントにショート・カウンターから2発見舞われた。普通ならこれでノックアウトだろう。リヴァプールが勝ち抜けするためには、3発返す必要ができたのだから。ましてや相手は、マドリーを沈めたこともあるヨーロッパでもトップクラスの鋭利なカウンターを持つドルトムント。前掛かりになればその裏をオバメヤンに、ロイスに、ムヒタリャンに突かれることとなる。実際、危ないシーンが前半終了間際に起こった。まったく期待できないキーパー・ミュニョレが、奇跡的に折り返しを指で触れて首の皮一枚サヴァイブした。
肝心の攻めでは、手数は見せたがクリーンヒットすることはなかった。6ラウンドを終えての採点は、ドルトムントが圧倒的にリードしていた。そして7ラウンド目のゴング。後半開始早々の48分に一発返すことに成功する。ドルトムントのお株を奪うようなショート・カウンター。裏に抜け出たオリギがトゥキックでヴァイデンフェラーの股を抜いて、ゲームは活気付いた。
しかし、その9分後にまたまた綺麗な一発を喰らいリング中央でダウン。最終ラインからドリブルで持ち上がったフンメルスのスルーパスに抜け出したロイスに、ダイレクトで美しい一発をゴール右隅に突き刺され1-3とされた。
アグリゲート・スコア2-4。
カウント・セブンくらいで立ち上がっただろうか。勝ち抜けにはまたまたあと3発必要となったが、レッズの目は死んでなかった。ハーフタイムでクロップが語りかけた言葉、『子孫に代々語り継げるような瞬間を作り出そう。ファンのために特別な夜を作り出そう』を信じ、誰一人欠けることなく全員が団結した。
怖れず、怯まず、自分たちを信じ攻める。アンフィールドを埋め尽くした12人目の選手たちの思いに応えるために、懸命にピッチを走った。66分。中盤で自由を得たコウチーニョがエリア手前中央にいたミルナーに預けワンツーからのボールを美しく強烈にゴール右に蹴り込みドルトムントからダウンを奪う。俄然勢い付くレッズ。交代で(カガワくんが引っ込んだのだが)何とかしようとしたドルトムント。しかしこのクリンチも効果はなく、その交代後すぐにCKからサコーがヘッドでネットを揺らし、ゲームはカオスへ突入することとなった。
残りは時間は、10分とアディショナル・タイム。
ラウンド11。ドルトムントは足にきていた。フンメルスは『3-1とした後、これで決まりだと思ってしまったんだ。アグレッシブな守備がなくなった。3-2とされてフットボールができなくなった。怖くなってしまったようだ』とコメントしていたが、完全に飲み込まれたと思う。そんななか、それでも90分まできた。フラフラになりながらも判定で勝ち上がるとこまであとちょっとだった。しかし、ゲームはこのままでは終わらなかった。
最終ラウンドの91分。右サイドで得たFKを直接放り込むことはせずに、ガラ空きの右サイド前に走り込んだスタリッジにボールを出して、スタリッジが秀逸なヒールからディフェンダーの股を抜いてフリーで走り込んできたミルナーに繋ぎ、ミルナーが丁寧に上げたクロスをファーサイドで待ち構えていたロブレンがヘッドを突き刺し、テンカウントを数えることとなった(ラストプレイでギュンンドアンがFKを決めそうにはなったが枠を僅かに捉えることができなかった)。
ユルゲン・クロップは、
『ドルトムントのカウンターは守れない時がある。4分、9分と決められた。それで試合終了ということもフットボールでは少なくない。だが、ここでは(アンフィールド)、このリヴァプールというチームとの試合では、そうじゃない』
『(3点目を決められてから)選手たちは闘志を見せた。素晴らしかったね。最上級の質を持つチームを相手に、こういう試合で挽回するには運も少し必要だ。だが、試合を見た人なら最終的に(勝利は)妥当だったと言うだろう』
『(アンフィールドは)見事な雰囲気だった。我々が一緒に成長していくために、こういう経験は必要なんだ。これで我々は一つの節目となるような試合をした。本当に良いことだ』
とコメントした。
『この試合は、自分たちが相手に譲ってしまったようなものだ。もちろん、巻き返す力も一つのクオリティーだけど、3-1になった後も集中していたら、彼らの挽回はなかったはずだ』と語ったフンメルス。
ゲーム前に2点は獲る。獲りに行かなければならないと語っていたトゥヘルが、
『言葉にするのは難しい。後半は大敗してしまった。後半だけで4失点したんだからね。もちろん、自分たちに求めるレベルに達することができなかったということだ。何としてでも次に進みたかったのだが、今日はそれを実現できなかった』
『長時間にわたって我々にとって良い流れのようだったが、終盤に何も失うものがない相手に敗れることとなった。相手を軽視?、それはない。ただ、3点目を決めてからももっと前を向いて、勇敢にプレーしなければいけなかった。特に自分たちがボールを持っているときにね』と総括した壮絶な殴り合いとなった一戦は、リヴァプールで長く語り継がれるであろう素晴らしい打ち合いとなった一戦だった。
カガワくんも絡んだムヒタリャンの1点目とロイスのスルーパスに抜け出したオバメヤンの2点目。
ロイスが決めた美しい3点目。
ドルトムントはまだヨーロッパのトップのクオリティを秘めていることを改めて実感したゲームだったが・・・。
このゲームではグッド・ルーザーとなった。
クロップの期待に見事なゴールで応えたオリギ。
反撃の狼煙を上げたコウチーニョの美しい一発。
本職のディフェンスではイマイチだったサコーの同点弾。
最後の奇跡の一発は、アンフィールドを埋め尽くしたサポーターに捧げられた魂のヘッドだった。
ユルゲン・クロップとレッズが奏でるヘヴィ・メタルの調は、僕にとってはなんとも心地よく響く。次の相手は、スペインのイエロー・サブマリン。このままELを制して、来シーズンはCLにカムバックして欲しいと心から願う。